赤い丘

日々の雑記。歯科医師。文学。哲学。酒。

キャンパス

先週、久々に西条にあるキャンパスを訪れた。このキャンパスで学んだのは、大学1年生の教養課程の1年間のみだったので、随分懐かしく感じた。期待と不安が入り混じった不思議な感覚を抱きながら、母と2人で借りたばかりのアパートから、入学式に向かったことは今でも忘れない。故郷から遠く離れた大学に進学することになった僕。当然ながら知り合いも何もいない。

大学受験に合格した喜びは、第一志望ではなかったことから格別に大きいということはなかった。むしろ、悔恨の情をいくばくか残したまま、大学進学を決意することにしたために、不本意な気持ちは、合格直後から進学を決意するとき、そしてその後にわたって心のどこかにたしかに存在していた。それでも、やっと受験勉強から解放されるという、その当時の究極な解放感を味わったことで、運命に従うことにした。

その時の感覚、質感とでもいうべきものが、ぎゅっと凝縮されたように、この土地には残っている。キャンパス内や、学生のアパートがたくさん立ち並ぶキャンパス周辺を思い思いに散策した。おとなりのお寺、馴染みのスーパーマーケット、大学への通学路。すべてが懐かしく思われた。おそらく今後、再び訪れることがあっても、同様の感覚を抱くに違いないであろう。その土地を踏んだときには、知らず知らず僕は昔の自分に還っていた。

変わったのは、僕が年をとったこと、僕の友人はもう誰一人としてここにはいないことだ。懐かしい風景は、昔のままだ。風景はそのまま同じで、そこで暮らす人間が、今も昔も変わらぬ大学生という種類の人間の中身が変わっているだけである。

こうして、月日が経つにつれて、感慨深いと思われる場所が増えていくのだろうか。刻一刻と、確実に歳をとっていくが、歳をとることで得られる心境というものに僕は興味が尽きない。